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沖縄フリーライター・WEB編集者/三好優実のブログです。

流浪の月

夜に読み始め、30ページ程度読んで眠ろうと思っていた。

 

だけど気づけば、顔面を涙でぐしゃぐしゃにしながら、312ページ読み上げてしまった。時計を見ると、針は5時をさしていた。

 

『流浪の月』

流浪の月

流浪の月

  • 作者:凪良 ゆう
  • 発売日: 2019/08/29
  • メディア: Kindle版
 

 

話題なので知っている人も多いと思うが、全国の書店員が選ぶ“一番売りたい本”2020年本屋大賞を受賞した本だ。

 

この本を知ったのは、興味本位&コスパにつられて買った本屋大賞2020 (本の雑誌増刊)のレビューだった。 

本屋大賞2020 (本の雑誌増刊)

本屋大賞2020 (本の雑誌増刊)

  • 発売日: 2020/04/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 受賞した本と、投票時に書店員から寄せられたレビューが書かれた"本のための本”なのだが、中でも本屋大賞を受賞した「流浪の月」には、情熱的というか感情がかき乱されたあとの残るレビューで溢れていた。

 

元々レビューフェチなわたしだが、さすが書店員というか、抜群な言葉のセンスにより書かれたレビューの数々は、本への敬意と感動に満ちており、涙腺が緩むものもいくつかあった。

 

中でも特にレビューとしての完成度に吸い込まれたものがあるのでふたつ紹介したい。

 

「同じ言葉で話すことができる」相手とようやくめぐり会えたとき、人はどれだけ孤独であったのかを思い知る。少女と青年に寄り添い共犯者となりながら、ページを閉じたそのあとも、喉をしめつけられるような穏やかな音楽が流れていった。

 

たとえば善意と呼ばれるもの、世間一般の常識や良識とされるもの。そんなものでは救われない場所に、足を浸している人間もいるのだ。

 

血のつながりよりも心のつながりを求めた更紗と文。それっていけないことですか?受け入れてくれる人の傍にいたいと願うのは、あたりまえのこと。そのはずなのに、ふたりを取り巻く社会はなんと過酷なことか。

 

でもふたりを引き離す法律や規範は、それだけ見れば間違っているとも言い切れないのだ。ふたりに奇異の目を向ける「社会」はわたしたちかもしれない。

 

どきっとした。まさにコロナ禍で浮き彫りになりつつあるが、ずっと前からあった「正義」「社会」は、時として“人間の感情”を追いやってしまう。人の感情に間違いはないはずなのに、間違っているといわんばかりに人を追い詰める性質をもっている。そして、そういう形で人を傷つけてしまったとき、わたしたちはその過ちに気づきにくい。

 

 

孤独を抱えた少女が唯一の理解者を得て、そして失うところから物語は始まる

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昔なにかの本で読んで、ずっと頭に残っている言葉がある。

 

『傷ついたことのない人間ほど迷惑な人間はいない』

 

人はそれなりに傷つきながら生きてきたからこそ、誰かの痛みに気付くことができる。でも、その痛みを誰もが理解できないものだとしたら...?

 

物語の主人公「更紗」と「文」は、“誰にもわかってもらえない””言葉が通じない”、そんな孤独を抱いたまま生き、そして出会い、言葉が通じる喜びに胸を馳せ、お互いしかいないと恋愛感情を抜きに思いながら、けれど引き裂かれてしまう。“善意”という名の集団に。

 

 ここでポイントなのは「恋愛感情抜きに」だということだ。多くの人にとって、ふたりのような”心のつながり”はいわば家族と育んでいくのだろう。それが他人になること自体は何の問題もないのだが、ふたりは世間から見ると、いわゆる「犯罪の加害者と被害者」なのだ。それがふたりをずっと苦しめることになる。

 

わたしが何といっても惹かれたのは、主人公の気持ちの”描写”だった。孤独という感情、苦しみと、もしかしたら誰もが心に抱えているかもしれない少しの異常性、恐怖や絶望、安堵などの描写がいちいち凄いのだ。文章を書く人間として強く憧れると同時に、多感すぎて生きていくのがしんどいんじゃないかと心配になる。それくらい、なんというか凄い文章だった。

 

そして主人公である更紗と文、という人物も魅力的だった。わたしは更紗の弱さと悲しさ、諦めと孤独に呼吸が苦しくなるほど悲しみを抱き、だけどもなぜか透明感のあるピュアさと、そして更紗の強さに憧れた。

 

人は生きづらさ、理解されなさを自分の中で認めたとき、そこから先は「ただ平凡な人間を装い、可能な限り社会に溶け込む」ことを選ぶと思うのだ。その方が圧倒的に楽だ。わたしなら、そうする。

 

だけど、更紗はたったひとりを選んだ。しかも、誰からも否定されるたったひとりを。その強さを感じた瞬間、息が止まるような切なさがこみあげてきたのだ。

 

「執着」「固執」「社会からの離脱」「偏愛」時に「ストーカー」など、言葉にすると決して美しいとはいえないふたりの関係は、なぜかずっと美しかった。苦しみも孤独もとっくにわかっていて、それでもたったひとりを求めた正直さと、そこ以外ない、いらないという覚悟。

 

ただひとりと生きていければいい、ただひとりさえ理解してくれればいい、そんな相手とどうすれば出会うことができるだろう。ともすれば、たったひとりを見つけた更紗と、多くの人と上手に付き合いながら生きてゆく人、どちらが幸福なのだろうか。

 

”たったひとり”に出会えたふたりは、誰が何と言おうと幸福だ。本の中の人物が、この先永遠に幸せでいられますように、なんて思ったのは初めてだった。

 

読んで時間が経った今もなお、表紙を見ると目に涙が滲む。そんな一冊だった。

 

流浪の月

流浪の月

  • 作者:凪良 ゆう
  • 発売日: 2019/08/29
  • メディア: Kindle版